■■パート1
潜水艦の運用経費はナチ党の負担なのか。私(高橋)のこんな質問に対して、ベラスコから意外な答えが返ってきた。
質問の主旨は、TO諜報機関やSS情報組織が、もはや戦後だというのに戦時体制並みに機能しているのはなぜか。維持経費も相当な金額になるだろう。ナチ党の隠し財源が豊富だからとはいえ、Uボートまで活用するとなれば、その燃料や食料、人件費を含めた運営費は膨大だ。事実かどうかは別だが、終戦時に百数十隻のUボートと25万人の乗務員が理由不明のまま消えたとする終戦ドイツ政府の戸籍調査結果があるといわれている。ボルマンらの逃亡例をみるかぎりでは、あり得ない調査結果でもない。
例の工作員フェリペがいう天文学的なナチ党資金量は怪しいが、いずれにせよ手もち資金の残りにも限界がくるだろう。敗戦国ドイツの経済破綻がナチ党の復興資金を生みだすまでには相当な年月が必要だろうからだ。ドイツ経済復興までのあいだ、隠し資金で軍事組織並みの大出費を重ねながら捲土重来を期すのは不可能なのではなかろうか。
ソファーに座ったベラスコは、私の疑問をけげんそうな顔つきで聞きながら、「カネの心配などない」といい切った。天文学的資金を保持しているからなのか?
「そうではない。ドイツ国民の税金や献金、それに隠匿資金でもない。もっと別の資金源のことだ」とつけ加えた。
別の資金源とは、ヒトラーのナチス・ドイツを軍事力で崩壊させた国際資本家グループに対抗する別の国際資本家グループのカネのことだという。ナチ党とドイツはその資金力で復興するのだから、Uボートの経費など問題外だという。
よく飲みこめない。そこでベラスコは次のようにつけ加えた。第一次大戦で賠償金膨れの文なし国ドイツに転落させたのも、再びその弱体化したドイツに第二次大戦を始めさせたのも、同じ国際資本家グループなのだ、と。
アドルフ・ヒトラー
そういえば、例の地下官邸でヒトラーはアメリカの原爆開発の詳細をベラスコに求めたものの、埒があかないとみて、「アメリカにいる私の友人たちも気にしているだろう。聞いてみよう」と口走った。21億ドルもつぎこんだアメリカの超極秘国家事業の原爆開発計画事情を自国のスパイ以上に知る「アメリカの友人」、そういった人物らが関係者なのだろうか。原爆計画に関与したほどの大物なら、潤沢な資金提供も可能だろう。
それにもう1つ、1929年と1931年にヒトラーのナチ党の前身「ドイツ社会労働党」は、アメリカの国際資本家グループから、それぞれ1000万、1300万の米ドル献金を受けている。ナチ党が主導権を握った1933年には700万米ドルの献金を同一グループから受けていた(UPI報道)こともあるという。アメリカにかぎらずドイツ国内や英国、フランス、オランダなどの国際資本家グループの資金もいったんナチ党の金庫に収納されれば、ベラスコの言う通り、それらが資金源になってスパイ組織網やUボートの維持経費に費やされるのだろう。
ベラスコの戦後は、ボルマンのナチス復活宣言──とはいっても、その宣言を聞いていた聴衆はベラスコ1人で、しかもその会場はUボートの狭い密室なのだが──を聞かされる場面から始まった。ボルマンの決意のなかには、当然ヒトラー第三帝国の敗因と教訓が下敷きにあった。ベラスコは小さな密室で新・旧ナチスの最高機密を"スパイ"できたことになる。